「私まで参列させていただけるなんて光栄で…」
「当たり前だ。サリーは僕の家族のようなものなんだから、代表として見てもらわなければ」
笑顔でそう言うとサリーは照れたように笑い「はい!」と涙を拭いた。
「私ったら、すみません。そういえば、ルドヴィーク様はどんなお召し物にされたのでしょうか」
「ガニエの伝統に合わせると言っていたから、黒い衣装だと思うが…。そういえば黒を着ているところなど見たことがないな」
「そうですね、まぁ何を着てもお似合いになりそうですけど」
サリーがそう言って笑うと確かにな、とエリアスも微笑む。どんなに落ち着いた色でも鮮やかな色でもあの男なら着こなしてしまうだろう。
「そういえば、ミルヴァの婚礼はガニエとは反対に白のお召し物を着られるそうですよ」
「へぇ、やはり国が違えば文化も違うな」
いつかルドヴィークの故郷にも言ってみたい。文献で見る芸術の国ミルヴァはどれも生き生きとした地として描かれている。
「ミルヴァでは式でお互いに誓いをたてるそうですよ。結婚相手へ一生の服従を誓うのだそうです」
「へぇ、服従とはなんだか怖いな」
戯けて言うとサリーは「そんなこともないですよ」と返す。
「アマンダから教えてもらいましたが、とてもロマンチックなんです。なんだか物語の騎士がお姫様に誓いを立てるようで。えーと、確か…」
夢心地でいうサリーはきっと自分に言われることを想像しているのだろう。
「私の真実なる魂を貴方に捧ぐと誓う。貴方の魂の欠片として、我が身を尽くすことを至上の喜びに…、そう誓うのだそうですよ」
「………ッ、ごほっ!」
少し紅潮した頬で誓いの言葉を誦じたサリーに、思わずエリアスは咽せるように咳き込んでしまう。
「あら大丈夫ですか?」
「ごほ、…ッあぁ、大丈夫だ」
「お顔も赤いですよ、どこか変なところにでも入っちゃいました?」
そう心配されても「大丈夫だ」と返すのが精一杯だ。
(もしかして、あの時言われたのは…)
そんなに経ってはいないはずなのに、もうずいぶんと時間が経った気がするがあれはエリアスに例の花束が送りつけられたときだっただろうか。
「本当に大丈夫ですか?あぁ、それからガニエとは違ってミルヴァは王族の方も側室を娶らない方が多いようですね。相手に服従を誓うのですから、二人とは出来ないという考えなのかもしれませんね」
サリーの言葉にエリアスは目を白黒するしかない。
(…なんだか馬鹿みたいだ)
気が抜けてしまって、肩の力も抜ける。
いろいろ考えてしまっていたのは自分だけで、ルドヴィークは初めから真摯にエリアスと向き合ってくれていたのかもしれない。
「エリアス様?」
「…なんだか不器用で視野の狭い自分を反省したくなるな」
「まぁ、急にどうしたんですか。それはエリアス様が誠実だからですよ」
いいところなのですから、変わらないでくださいねと言われて、家族のようなサリーの言葉に胸が温かくなる。
「それに、エリアス様の視野が狭いのはご自身についてだけですよ」
「なんだそれは?」
「いいのです、そのままで。さぁ、出来ましたよ」
そう言ってポンと肩に手を置かれる。
「幸せになってくださいまし」
そう言われて、エリアスは深くうなずいた。
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