その後、散々ルドヴィークが本気なのだと身体を使って教え込まされることになったエリアスが解放されたのは日付が変わってからだった。
ルドヴィークの部屋に連れ込まれたのが夕刻よりもずっと前だったことを考えると発情期でもないのに何時間抱き合っていたのか思い出すだけで頬が赤くなる。
褥で言い聞かせるように繰り返された彼の気持ちも、信じるというよりもはやルドヴィークの気持ちを否定する元気がないと言ったほうが正しいかもしれない。
(けれど、結局は僕がルドヴィークの気持ちを信じたかったんだ…)
鏡に映る自分を見ながらエリアスは数日前のことを思い出す。うしろではせっせとサリーがエリアスの身支度を整えてくれていた。
あのルドヴィークの部屋に連れ込まれた日から、次の日もその次の日も今まで以上に熱心に愛を囁かれて、エリアスが陥落するのはそう時間はかからなかった。
(今朝もあんな…)
今日も触れるだけのキスで起こされたエリアスは、その身にルドヴィークの想いを織るように愛されたことが思い出されて頬が火照る。
「エイリアス様?緊張されてます?」
「い、いや大丈夫だ!」
主の顔が赤いのを見てサリーが心配そうに声をかけるが、褥でのことを思い出していたなどとはとても言えずにエリアスはぶんぶんと首を振った。
(国の関係は言い訳で、僕に自信がなかったからなのかもしれないな…)
いま考えれば、頑なに身を引かなければと思っていたのはルドヴィークがどうの、というよりも自分の心の持ちようだったのだと思う。
「エリアス様、カフスはこちらでよろしいですか」
サリーに言われて、見やると確実にエリアスの趣味ではない幾つも宝石の鏤められた煌びやかなものが差し出されていた。
「いや、いつもので…」
「もう、せっかくルドヴィーク様に頂きましたのに」
そう不満そうに言いながら、サリーはそれを端に寄せる。
「僕はシンプルなのが好きなんだ」
言い訳するように言うエリアスの髪をアマンダの調合したと言う精油で梳かすサリーに「はいはい」と流されてしまう。
「今日くらいルドヴィーク様からいただいた物をお召しになってもいいでしょうに」
「今日だから嫌なんだ。なんだかこれ見よがしじゃないか?」
「気にしすぎですよ」
そう言われると返す言葉もない。
「そういえば、ブルスク子爵からお手紙が来ていました」
「そうか、教育事業の計画も形になってきたからな。そのことだろう」
エリアスが目指していた市民への初等教育の拡充はその後、試験的な実施地として手を挙げてくれたブルスク子爵の領地で行われることが決定した。
子爵の領地は王都からは遠いが農村地とそれを捌くための市場などが発達した市街地があり、計画の実施場所としては申し分ない。それぞれの土地で問題も出るだろうが、それに対応する方策がわかれば、将来的にはガニエ全域で行われることになる。
王も子爵の領地での実施例があれば全国に広めるための貴族達への突破口になると評価してくれているのだ。
「なんだか最近のエリアス様は頼もしいですわね。ルドヴィーク様のおかげでしょうか」
「そ、それは関係ないだろう」
「前は少し遠慮がちというか、自信を持っていただきたかったのですが。良かったです」
そう言うとグスッと鼻をすする音がして、エリアスは今まで一番自分を支えてくれていた侍女を見つめる。
「ありがとう、サリー」
「うぅ、このお姿を、きっとエリアス様のお母さまも、私の祖母も見たかったはずですわ」
エリアスが身に纏っているのはガニエの象徴である黒い衣装だが、それは胸の飾りなどに王家の紋章があしらわれた最上位の礼服だった。
今日、エリアスとルドヴィークは本当の夫婦となる。この後には式典が用意されていた。
サリーは鏡の中のエリアスを見つめると、また「良かったです」と涙を流す。
「この婚姻が決まった時には、本当にどうなることかと…」
「サリー…」
きっとエリアスの身を案じて身を揉んでくれたであろうサリーには頭が上がらない。母が亡くなって寂しくなかったのはサリーのおかげだ。
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