どうしたのだろうか。具合でも悪いのかと思って慌てるエリアスにルドヴィークは「悪かった」とそのままの体勢で言った。
「ルドヴィークが謝ることなど…」
「いや、私が悪い。」
そうはっきり言うと顔を上げて、エリアスの額と自分のそれを合わせるともう一度「悪かった」と呟いた。
つい先程までの険悪な雰囲気はどこかへ行ってしまった。ほっとするのと同時に距離の近さに心臓の鼓動が速くなる。
「大人気ない真似をした。らしくなく焦ったんだ」
訳がわからずエリアスは目を瞬かせる。この飄々とした男が焦るところなど想像がつかない。
「身から出た錆といえないこともないが、こうも信用されてないと思うとね」
みっともないなとルドヴィークは独り言のように言うとエリアスから離れる。
「ルドヴィーク?」
見上げた彼の顔にはもういつも通り笑みがあった。
「エリアスは私のことが好きだと言うし、私もエリアスを愛している。それでは駄目かい?」
「………、ルドヴィークがそう言うのなら僕は構わないが…」
エリアスは少しの間の後、そう返した。そうルドヴィークに言ってもらえるのは素直に嬉しいが、これをそのまま受け取るほど世間知らずではない。
立場で言えば、エリアスの方がこの国では上なのだ。その人間に気持ちを伝えられて、跳ね除けられるものは少ないだろう。
(僕があの時、気持ちを伝えたせいでルドヴィークは居場所だけでなく、精神的にも縛る事になってしまったのか…)
ルドヴィークが捕まった時、なぜ自分の気持ちを吐露してしまったのか。それがルドヴィークを縛ることになるのだと、あの時の自分に言ってやりたかった。
落ち込んだ様子のエリアスはルドヴィークの口元が笑みの形のままひくりと動いた事には気がつかなかった。
「どちらにしろ結婚するのには変わりない。ここでの生活は長い、その中で考えていこう」
切り上げるように、そう言う。ここで押し問答しても仕方がない。自分がきちんと自制して、ルドヴィークを見守っていけばいいのだ。
そう思って「さぁ戻ろう」とルドヴィークを促す。
「エリアスのその自分よりも相手を考える思いやりと男らしさは好きなところでもあるのだが…」
「え?」
ルドヴィークの言ったことは小さくて聞き取れなかった。ルドヴィークはもう一度言う気も無いようで「いいや」と言って歩き出した。
「エリアスにはまず自覚と自信が必要だ。これから私の部屋に行こう。たっぷりと教え込んであげるよ」
訳がわからずに首絵を傾げるエリアスの背に手を回すとルドヴィークは否とは言わせない強さで「私の言葉を信じさせてあげよう」と艶やかに笑った。ルドヴィークに何も言えずに、訳がわからないままにエリアスは引きづられるように廊下を歩いくしかなかった。
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